「すてた人 > すてられない人」
2017年7月1日
■プロフェッショナルとは
『いろんな大事なものを、捨てちゃってる人じゃない? 』NHKの番組で、デジタルクリエーターの猪子寿之さんが、「プロフェッショナルとは?」との問いに答えた言葉です。キャラクターがら、一見いい加減なように感じますが、実はプロとしてのあり方の本質を言い表していると感じ入りました。この方の捨てたものは何か、それは「過去」と「未来」なのではないかと推察します。「過去」とは、成功体験やつまらないプライド、後悔や怒り、「未来」とは、余計な恐れや不安、心配などではないでしょうか。冒頭の言葉は、常に心の中が、凝り固まることもなく、自由でニュートラルな状態にあり、”今だけ”に没頭できれば、自ずと素晴らしい結果が出るという、ビジネスの真理を突いていると思います。
■一人の天才より、チームの力
ちなみに、猪子さんはT大出身ですが、自分のことを天才だと思っていません。それは「一人の天才より、チームの力」というポリシーとなっています。ここで思い出したのは、元T大総長の佐々木毅さんがT大新入生に対し、「本当に”すごい”人間や自分が到底”かなわない”人間に出会うということが大切。それにより刺激され、厳しさを肌で感ずることが醍醐味でなければならない」という趣旨のお話をされたことです。猪子さんもT大で、すごい人やかなわない人たちに出会ったのかもしれません。そして、会社名にも”チーム”と冠しているように、自分だけでやることより、チームで協力して成し遂げることの意義を身につけたのでしょう。謙虚というよりも、冷静に自分を見ていると感じます。
■”今だけ”に没頭する
猪子さんと共通すると思われる方がタモリさんです。恩師の赤塚不二夫さんの葬儀に読んだ”白紙の弔辞”は、「あなた(赤塚さん)の考えは、すべての出来事、存在をあるがままに、前向きに肯定し、受け入れることです。それによって人間は重苦しい陰の世界から解放され、軽やかになり、また時間は前後関係を断ち放たれて、その時その場が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち『これでいいのだ』と」いうものでした。あるがままに、受け入れることで、時間の連続性を断ち切ることが出来る、つまり”今しかない”、”今だけ”に没頭することだと思います。『これでいいのだ』って、とても奥の深い言葉だったのだと実感した次第です。
■すてられる人
スポーツ界の為末大さんも、「マインドセットを変える」という表現で、同じようなことを言われています。マインドセットとは、自分の行・言動の判断基準を作る前提となる「物事の見方・考え方」の癖のことで、「思い込み」「先入観」「刷り込み」などがあります。為末さんは、マインドセットが変わると前提が変わり、行動が変わり、結果に差が出ることを、元大リーガーの野茂さんの例を示して、その重要性を強調されています。マインドセットを変えるとは、過去を捨てると同義語でもあります。これが、なかなか簡単でないのは、マインドセットは無意識の領域だからです。つまり、この存在に気づくか、気づかないかという差が、すてられる人か否かの最大の分岐点になるといえます。
■すてられない人
マインドセットが変わったことがある人間は、それを「変えられる」と信じられますが、変わった経験がないとそもそもマインドセットというものが存在するとすら考えられません。この手の方の傾向として、何でも疑ってしまう癖があるようで、「マインドセット=うさん臭い」 「マインドセット?そんなのもう分かっているから今さら学ぶ必要なんかない」 「マインドセットの意味はよくわからないけど、かっこいいから使っている」という残念な反応になりがちです。「何事もゆきづまれば、まず自分の見方を変えることである。案外、人は無意識の中にも一つの見方に執して、他の見方のあることを忘れがちである」とは松下幸之助さんの言葉です。要は、気づいた者勝ち、捨てた者勝ちの世界です。
■考え方
京セラ、KDDI、JALなどの設立や再生を指揮した稲盛和夫さんは、「人生・仕事の結果=「能力」×「熱意」×「考え方」という成功の方程式を作られました。ここで最も重要なのは『考え方』です。それは、「能力」と「熱意」は100点までですが、「考え方」はマイナス100点からプラス100点までです。話題の元官僚氏や離党代議士を拝見したところ、暗記や記憶は優れており、やる気もあるので、「能力」・「熱意」は100点かもしれません。しかし、この騒動の動機は私利私欲と思われますので、これでは『考え方』がマイナスになり、残念ながら、全体もマイナスになってしまいました。どうやら、過去や未来は、捨てたり、忘れたりできる人の方が、より良い人生を送ることができる度合いは相当高そうです。