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「給与DXのエムザス」 給与とシステム両方を本業に約20年

社長とれんど考察

「人に任せる > 自分がやる」

2019年5月7日

■自分でやった方が早い病
多くのビジネスパーソンが悩むのが、人に任せるべきか、自分でやるべきかということです。組織でリーダーに任命されたとき、必ず上役から言われるのは、「自分でやらずに、部下に任せろ」ということでしょう。これを実行しようと試みたときに実感するのは、「部下への任せ方がわからん」、「教えるヒマがないから自分でやる」等です。ある程度の経験を積むと、自分でやった方が早いし成果も上げやすいと思ってしまうものです。一面正しいのですが、ともすれば近視眼に陥りがちになります。これを「自分でやった方が早い」という病と誰かが名づけました。さらにこのテーマは、初期管理職のみならず、会社の重役や経営者にも当てはまるという永遠の課題でもあります。

■任せたくない、任せられない人
河合隼雄さんの『働きざかりの心理学』にこのテーマをとりあげたものがありました。任せたくない人、任せられない人として、係長のKさんが登場します。Kさんは仕事好きとでも言うべきか、いつも熱心にてきぱきと働く人です。その割には部下からはあまり好かれていません。Kさんは部下の仕事を「取ってしまう」ようなところがあるからです。当然、部下がすべき仕事でもあるいは、部下にまかせてある仕事でも、Kさんがはいりこんできて、何かと手伝うのです。従って、Kさんの仕事は増えますが、一所懸命にやってしまう、というわけです。そしてKさんは「自分は楽になりたいなどと思わない。勤めている以上、仕事に精を出すのは当然だ」などと開き直ったりもするのでした。

■任せるという新たな仕事
こんなKさんに転機が訪れます。ある時、部長に飲みに誘われ色々と話しをした後、部下に仕事をまかせるように努め出したのです。不思議に思った人が部長は一体どんなことを言ったのかと尋ねてみると、「部下に仕事をまかせるというのは、楽になることではなく、種類の違った『仕事』、あるいは苦労を引き受ける、ということだよ」と言われ、感ずるものがあったとのこと。「誰かに仕事をまかせるということは、労力や時間という点では楽になるだろうが、そのために費やす心のエネルギーという点から考えると、自分で仕事をするよりも多量のエネルギーを費やさねばならないのである。つまり、ちっとも「楽」になどなるのではなく、「仕事」の質が変わる」というものでした。

■時短から時創へ
仕事をまかせると、部下は仕事の手際が悪かったり、ゆっくりとしたりして、自分でやる方が楽だと感じるものです。しかし、このようなところを耐えてこそ部下も成長するといえます。そして、部下がうまく仕事をしたときは、賞めてやらねばなりません。賞めてやると、なかには自分の力によってすべてがうまくいったと思い上がる部下もいます。こんなときにどうすればよいか。このように考えてゆくと、まかせる方が自分でするより「仕事」は増加するのです。そのうえ、仕事を部下にまかせた分だけ、時間や労力が省けることは事実だから、その分だけ新しい仕事を見出してゆかねばなりません。時短ではなく、未来も拓くための時間算出、つまり時創への発想の転換を迫られます。

■「自分でやった方が早い」病の末路
「自分でやった方が早い」病を、主として人に任せるスキルが不足していると仮定すれば、会社を成長させたくてもなかなか成長できない会社の社長や重役になりたいのになれない部長をはじめ、自らは専門家と称して自分の好きなことだけをしようと現実から逃避している人たちには、アイデアの豊富さやエネルギーの強さに応じて、一時的には存在する成功者にはなりうりますが、時代やメンバーを超えて存続することは難しいでしょう。森博嗣さんの本には、「他者に理解され、他者によって再現できなければ「技術」にはならない」というフレーズがありますが、どんな世界でも本物とは、「自分でやった方が早い」病を越えてきた人なのでしょう。

■任せて任さず
とはいえ、任せるのは難しいのは事実です。この点、経営の神様はどのように超えたのでしょうか。松下幸之助は従業員に仕事を与えるとき、その長所を見、仮に経験、実績がなくても、潜在能力を信頼して大胆に仕事を任せました。その結果、多くの人が育ちました。仕事は任す、しかし任せっ放しではいけない。任せた後も自力で成功するまでフォローを続けることが必要です。適時適切に報告を聞き、事と次第によっては的確な指導、助言を与えなければならない。それが責任者の務めということです。世界に冠たる企業の創始者であり、我が国有数のお金持ちであり続けた方のやり方と同じことができれば、それぞれの分野や立ち位置において同様の結果を実現できるかもしれません。

■仕事の質の高め方
ふたたび『働きざかりの心理学』。「仕事を他人にまかさず自分でやる人は、小さい苦労を引き受けることによって、大きい苦労を避けているとさえ言うことができる。小さい苦労を大きい苦労に、目に見える苦労を目に見えない苦労に変えてゆく努力を重ねることによって、人間のスケールも大きくなるのではなかろうか。」真の意味において、人に任せることができるのは、自分だけの成功や幸福を視野に入れているより、多くの他人の成功や幸福を視野に入れる能力があるからではないでしょうか。度量の大きな人には、人々が集まり、より多くの力を与えられるので、結果として自分の成功や幸福を得ることにつながっていくのでしょう。人に任せられるのも実力のうちなのです。