「70歳雇用 > 45歳定年」
2021年12月1日
■雇用と仕事
新型コロナの感染者数も話題性が少なくなってきたように感じます。新幹線や飛行機も少しずつながらも乗客数は戻りつつあり、夜の街や観光地のにぎわいも回復が期待されています。政府は補正予算を組んで様々な対策をとるようですし、変異株の流行などがなければ、新しい年を区切りとして、この二年間国民が我慢してきたことは、いわゆるリベンジ消費行動に向かうことでしょう。このような期待感がある一方、コロナとは関係なく少子化と高齢化は着々と進んでおります。またコロナが加速させたデジタル社会化はどんどん進んでいくでしょう。そのような時代背景のもと、企業の雇用や私たちの仕事はどのような方向に向かうのでしょうか。最近のキーワードから考えてみました。
■改正高年法
2021年4月に改正高年法が施行されました。今回の改正ポイントは、七十歳までの就業確保措置の努力義務化です。対象となるのは、全ての企業であり、中小企業の猶予措置はありません。現段階では努力義務なのですが、2013年の改正による65歳までの雇用確保措置の義務化までのプロセスを振り返りますと、そうは遠くないうちに義務化されることになりそうです。一方、定年は60歳を下回らなければいいことは変わりません。企業は六十歳で定年を迎えた社員を、七十歳まで再雇用するか、七十歳まで定年を伸ばすか、定年を無くすかのいずれかを選択することになります。 詳細は様々な方法がありますがこれから企業を悩ますテーマになってくるでしょう。
■45歳定年説
七十歳雇用に向けた法制化がなされた一方で、サントリーの社長が語ったとされる「45歳定年説」というものがあります。定年という言葉を使っているので、法律から言うと45歳で定年となると法違反になりますが、趣旨はそういうことではありません。実際に人は加齢とともに気力や体力などが低下すると言われていますので、仕事の内容によっては45歳でその仕事を終わることはあり得ます。わかりやすい例はスポーツ選手です。やはり現役で六十歳、七十歳まで勤めるのは不可能です。企業が従業員を45歳 で定年退職はさせられませんが、違う仕事に配置転換したり、労働時間を短くすることは可能です。45歳で首を切られるのではないかと話題になりましたが、サントリーがそんなことは致しません。
■ジョブ型
ジョブ型雇用という言葉も生まれました。むかし成果主義という言葉が流行りましたが、それと同じではないかという論調もあったのですが、どうやら違うようで、アメリカなどでよく言われる職務記述書に則って仕事をする働き方のことを言うようです。つまり、ジョブ型雇用とは契約書に書いてある通り仕事をするという働き方を意味するのだと思います。実際の職場では非定型的な業務も多く、労働契約書や職務記述書に書いてないことも場合によってはやらないといけないですから、 ジョブ型雇用というのはむしろ標準的な仕事に従事する方のものであり、主導的立場や管理職を志向する方には、あまり当てはまらないのではないかと思っております。
■仕事の確保
このように、雇用や仕事をめぐる記事や報道を見ていると、全体を俯瞰的に見ているというよりは、特定の立場から仕事を捉えているように感じます。とはいえ、ほぼすべての人にとっては、これから先の仕事を確保するということは共通の課題になります。これは政治家でも同じで、万年野党を目指して議員という仕事を確保しようという動きも見て取れます。様々な企業の中でも同じようなことは起こっています。幹部であろうが、なかろうが、その仕事を自分にしかできないように巧妙に仕組でくる場合がありますので要注意です。定期的な人事異動や特定個人に依存しない業務遂行は普段から模索しなければなりません。
■リスキリニング
サンデル教授の実力も運のうちではありませんが、よほどの強運ではない限りスキルの向上なくして仕事の確保は難しくなると思います。なかでもデジタル技術の発展が一番大きな要因かもしれません。こういう動きは、歴史を見ればずっと人類が出くわし、超えてきたことでもあります。我が国においても明治維新や第二次対戦の前後で、職が失われたり、新たな職を見つけたりしてきた経緯があります。やはり、大多数の人にとっては、仕事は変化していくものでもありますので、リスキリングが必要になります。ちなみに、リスキリングとは経産省で発表された用語のようです。新たにスキルを身につけることとされ、転職やキャリアアップの文脈で用いられることが多くなってきたようです。
■長期の視点
雇用や仕事の分野でも変化が激しいと言われますが、実はコロナ前から着々と進んでいた変化が顕在化しただけです。近年、人生100年時代と言われるようになりました。ひと山だった人生は、ふた山の人生の覚悟がいるようになると心理学の河合隼雄さんが30年前から言われていましたが、誰でも生涯一社という時代は終わりました。生涯、数社に勤めることも、同時に複数に勤めることも現実味が出てきました。「70歳雇用」も「45歳定年」も現実です。逆説的にとらえれば、「70歳雇用」を目指すなら「45歳定年」も合わせて考えておく必要があります。加齢は例外なく訪れますので、キャリア形成は長期の視点が必須になります。